江崎グリコ、「プッチンプリン」など17ブランドを出荷停止
背景にあるのは生産体制におけるITインフラの再整備
江崎グリコは340億円かけてSAPを始めとするITインフラを整えようとしていた。IRにも書いてあった。 やけど、それが見事に失敗し、冷蔵品の生産停止まで追い込まれた。 江崎グリコのIT担当者+導入支援SIerが責任のなすりつけ合戦をするのは見えてるけど、元はといえばSAPも悪いから、思うことを書いていく。 ERPってのは、企業がモノをどれだけ作りました、在庫どれだけあります、いつまでに生産できます、売ったから売上増えました、利益出ました、いま現金いくらあります、みたいな企業のデータの処理・管理を統合的に行うソフトで、1990年代に流行した。 SAPは当初SAP R3という製品名で展開した業界のさきがけだが、国内でも大手の自動車メーカーや総合商社、製薬業など、ありとあらゆる業界に導入されていて、圧倒的なシェアを持つ企業となった。ドイツの企業。 SAPは他の多くのソフトウェアと同様、1990年代によく売れたバージョン”R3″からバージョンアップしていったが、20年たってもほぼ同じアーキテクチャで動いていた。 超絶使いにくいのに世界トップシェアのERPで、画面はWindows98の時代から変わってなかったが売れた。 とても高い上に評判は悪いので、Oracleとか他の企業がこの領域にチャレンジしようとしたが、うまくいかず打ち破れてSAPの独占が続いた。 この独占を良いことに、SAPは高額な保守料をせしめてきたわけやが、2015年に突如 「S4/HANAという新しいアーキテクチャの製品を発表する。現行のSAP利用企業は、2025年までにS4/HANAにアップグレードせよ、さもなくば保守を停止する」 と発表した。 10年間あるとはいえ、SAPのソフトを高額で追加の費用を出してアップグレードし、ERP導入という巨大プロジェクトをまた会社を挙げて行おうなどそう簡単には出来ない。 現実に、江崎グリコ(年商3500億円)の会社規模で、340億円もかけてSAPのアップグレードをしなくてはならないわけで、どの企業にもあまりにもコストがかかる話であった。 これだけの規模のアップグレードとなると、ほぼ新たにシステムを導入するのと同じくらいの人員が必要になるわけだが、枯れた技術や領域であったERPの導入技術者になろうなどという若者は長らくいなかった。 みなPythonとかAIとか、新しい技術に行っていたわけやね。 だから技術者の高齢化も進んでいた。 しかし2025年のアップグレード期限が設けられたわけで、大量の大手企業が一斉にSAPアップグレードプロジェクトを開始した。 長らく人員が育ってなかったので、SAPの導入ができる技術者も国内に全く足りない状況になった。 そこで今度はすでにいるSAP技術者の奪い合いが発生した。 銀行のシステム開発の希少なコボラー(COBOL開発者)などと同じように、SAP技術者の高値での奪い合いが起き、オッサン技術者が高額で引く手あまたとなった。 これが1990年代におきた第1次SAPバブルに次ぐ。第2次SAPバブルと言う。 SAP社も技術者を増やそうと多少努力したが全く足りなかったので、深刻な問題に発展した。 2018年に、経済産業省が「DXレポート」という報告書の中で言及した「2025年の崖」という言葉があるが、それはまさにこのSAPの大問題のことが大きい。 2025年の崖は、多くの企業に残るレガシーシステムの保守をやる人材がいなくなる・保守に金がかかりまくる、というレポートで、まさにこの問題が名指しで言及された。 1990年代から2015年まで25年に渡り多くの企業に売りまくってきた化石レガシーシステムSAPを、10年以内にアップグレードするには時間がなさすぎる。 さらに人材がいないから技術者の単価も倍以上に膨らみ、企業も膨大なコストを払うことになった。 メーカーサポートなしで使い続けることも出来ないわけではないが、セキュリティ対応や法改正対応もされなければ企業の基幹システムとしては危険すぎる。 しかし一部の企業は保守が切れても使ってしまおう、そんな金払えないし、という企業も続出した。 しかし古いソフトウェアを永久に保守対応をすることはSAP社にとってもコストがかかり無理な話で、MicrosoftもAppleも皆古いソフトの保守には期限を設けているのは言うまでもない。 結局、どう考えても2025年は間に合うはずもないので、SAP社は2025年から2027年まで保守を伸ばすと発表した。 しかしたった2年でも焼け石に水で、引き続き人が足りない状態が継続したのは言うまでもない。 そこでさらに2030年まで追加でお金払えば延長保守も受けられますよーと発表をしたが、それで間に合うのかも怪しい。 ここまでの話でわかるように、今回のプッチンプリン騒動でフォーカスを当てるべきは、おそらくSAP社のソフトウェア自体にバグや問題があったかどうかではない。 人が足りないことのほうが問題である。 SAPの導入プロジェクト・アップグレードプロジェクトを遂行できる人材が明らかに市場に不足していて、かつ費用が馬鹿高くなってしまっているのが根本原因で、なんと340億円もかけてもしくじるという体たらくなわけで、これから他のSAP導入企業でも同じことが起きる可能性は当然ある。 かつて枯れた技術者扱いだったSAP技術者のしおれたオッサンたちは、今やコンサル単価・月300万400万で引く手あまたになっていると聞く。 あまりの需要に、実力のある技術者は独立し、年収4000万5000万になっている。 今や建設人材が足りなくて万博会場に出展をやめる国が多数出ていたり、木製リングに350億円かけてるのをみてわかるように、人が足りなければシステムを作ることが出来ないし、金をかければシステムは作れても、それでは企業に金がなくなって本末転倒である。 トラック運送業界、飲食店のバイト、ホテルの清掃スタッフ、建設業界、バスの運転手、あらゆるシーンで人が足りないと問題になっているが、人が足りなければクオリティの低い人材でも雇うしかないわけで、それは仕事の結果やサービスの品質にも現れてくる。 今回はプッチンプリンの背景について思うところを解説した。ぜひ記事が気に入ったらフォローをしてくれると嬉しい。
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