税金はしっかりとっていくのに自分の会計報告はガバガバ
政治資金や選挙運動費用を巡る問題で寺田稔総務相を更迭した岸田文雄首相(65)が、昨年の衆院選(10月31日投開票)に伴う選挙運動費用収支報告書に、宛名も但し書きも空白の領収書を94枚添付していたことが、「週刊文春」の取材でわかった。目的を記載した領収書を提出することを定めた公職選挙法に違反する疑いがある。
岸田首相は広島1区選出。1993年の初当選以来、昨年の衆院選で当選は10回を数える
それらの中で、但し書きが空白の領収書は全体の3分の1を上回る98枚、計約106万円分、宛名が空白の領収書は全体の半数を超える141枚、計約58万円分に上っていた。このうち、宛名も但し書きも空白の領収書は94枚、計約9万5000円分だった。
例えば、広島市のオフィス関連会社から受領した領収書80万5885円分などは但し書きが空白。広島市の中国料理店から受領した領収書3400円分や、広島市のドラッグストアから受領した領収書2278円分などは宛名も但し書きも空白だった。
公職選挙法では、選挙運動に関する全ての支出について、金額、年月日、目的を記載した領収書など支出を証明する書面を選挙管理委員会に提出することを義務付けている。宛名についての規定はないものの、空白は望ましくないとされている。
広島県選挙管理委員会の担当者は次のように回答した。
「公職選挙法188条の規定では、金額、年月日、目的を記載しなければならないとしています。この条文通り、目的を記載した領収書を選挙運動費用収支報告書に添付するのが、正しい在り方です」
https://bunshun.jp/articles/-/58898?page=2
会計処理についての罰則は?
1.会計処理、収支報告等に関する罰則法に違反した場合の主な罰則には、下記のものがあります。
違反の内容 罰則 無届団体の寄附の受領、支出の禁止違反 5年以下の禁錮又は 100万円以下の罰金 会計帳簿の備付け違反、不記載、虚偽記載(※1) 3年以下の禁錮又は 50万円以下の罰金 明細書の不提出、不記載、虚偽記載(※1) 3年以下の禁錮又は 50万円以下の罰金 領収書等の不徴収、不送付、虚偽記載(※1) 3年以下の禁錮又は 50万円以下の罰金 会計帳簿、明細書、領収書等、徴難明細書、 振込明細書、支出目的書の 保存義務違反、これらへの虚偽記載(※1) 3年以下の禁錮又は 50万円以下の罰金 収支報告書、添付文書、政治資金監査報告書の 不提出(※1、※2) 5年以下の禁錮又は 100万円以下の罰金 収支報告書、添付文書の不記載、虚偽記載 (※1、※2) 5年以下の禁錮又は 100万円以下の罰金 政治資金監査報告書の虚偽記載 30万円以下の罰金 ※1については重過失の場合も含まれます。 ※2については、代表者が会計責任者の選任、監督について相当の注意を怠ったときは、50万円以下の罰金に処せられます。https://www.soumu.go.jp/main_content/000077920.pdf
なんで守られないのか?
政治資金の問題に詳しい日本大学法学部の岩井奉信 教授は、「これだけ多くの不記載が見つかったことは、制度の根幹を揺るがす深刻な事態だ。政治の世界の中で収支報告書に事実を正確に記載することを軽視する風潮がまん延しているのではないか。政治とお金に関する記録をすべて残し、第三者がチェックできる仕組みを作る必要がある」と話しています。
不記載額 議員1人あたり最多は620万円
与野党を通じて不記載の額が最も多かったのは、自民党の衆議院比例九州ブロック選出の國場幸之助議員で、代表を務める「コクバ幸之助後援会」が、「宏池政策研究会」から受けた平成29年の3件500万円、去年の2件120万円の寄付、合わせて620万円を記載していませんでした。
収支報告書はすでに訂正され、國場議員の事務所は「当時の担当者が退職し、詳しい経緯は不明です。引き続き政治資金規正法にのっとり、政治資金の適正な処理に取り組んでまいります」とコメントしています。
一方、野党で不記載の額が最も多かったのは日本維新の会の参議院大阪選挙区選出の梅村みずほ議員で、代表を務める「梅村みずほ後援会」が去年、「日本維新の会国会議員団」から受けた寄付100万円を記載していませんでした。
収支報告書はすでに訂正され、梅村議員はNHKの取材に対し「去年初当選し、当初は政治資金を管理する団体を持っていなかった。秘書が急いで口座をつくり、振り込んでもらったが、その秘書が退職し引き継ぎがうまくいかなかった。結果的に管理が行き届かず申し訳ない」と述べました。
不記載件数 議員1人あたり最多は6件 3年連続で不記載見つかる
9日までに不記載を認めた65人のうち件数が最も多かったのは自民党の参議院比例選出の園田修光議員の6件で、園田議員が代表を務める「園田修光後援会」は、「有隣会」と「全国介護福祉政治連盟」から受けた寄付、合わせて200万円を記載していませんでした。
不記載は3年連続で見つかり、園田修光後援会はすでに収支報告書を訂正しています。
園田議員の事務所は、「誤ってすでに解散していた政治団体の名前で領収書を発行したため、実際に寄付を受けた政治団体の収支報告書への記載がもれてしまった。当時の秘書が解散のことを知らなかったため生じたミスで、申し訳ない」としています。
見つかった不記載 専門家「氷山の一角の可能性」
今回NHKが行った調査では、まず、政治資金収支報告書を総務省に提出しているおよそ3000の政治団体すべてを対象に、収支報告書の支出の内容を調べました。
この支出のうち、年間5万円を超える寄付や1回の政治資金パーティーで20万円を超えるパーティー券の代金について、受け取った国会議員側が収支報告書に収入として正しく記載しているか確認しました。
総務省のまとめでは国会議員関係の政治団体はおよそ1900あり、今回の調査では去年までの3年間でおよそ3万件の資金のやり取りを確認しました。
1件1件突合を進めた結果、9日までに確認できただけで、65人の関係する政治団体で94件、5704万円の不記載があることがわかりました。
ただ公開されている資料から検証できる資金の動きは、資金を出した側と受けた側の双方が収支報告書を提出する必要がある政治団体間のやり取りだけで、さらに一定の金額を超えるなどした一部に限られます。
収支報告書を作成しない企業や個人による献金などそのほかの資金の動きは、政治団体側が収支報告書に正しく記載しなければ、表に出なくなります。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/49843.html
記載がなぜ起きるのか政治団体の関係者を取材すると永田町の慣習や制度への誤解が背景にあることもわかってきました。
ある議員の事務所の担当者は、「去年12月、所属する派閥の事務所で100万円の寄付を秘書が現金で受け取り、銀行口座に入金しました。その後、別の会計担当者が誤って議員からの『借入金』として処理してしまいました」と明かすなど、いまだに多額の金銭を現金でやり取りする永田町独特の慣習が記載漏れにつながったとみられます。
また年間5万円を超える寄付はすべて収支報告書に記載する必要がありますが、ある議員の政治団体の担当者は、1回につき5万円以下なら記載しなくていいと誤解していたということで、この議員の事務所は「担当者を厳重注意し以後、このようなことがないよう徹底してまいります」と回答しました。
専門家「不記載の問題 技術的には容易に解決」
データの分析と可視化が専門の、日本大学の尾上洋介准教授は現在の技術を活用してデジタル化を進めれば不記載の問題は比較的容易に解決できると指摘しています。
現在、政治資金収支報告書は、ほとんどの政治団体が紙で提出しています。
一部の団体はオンラインで提出していますが、この場合も記載漏れがあることをチェックできるシステムにはなっていません。
尾上准教授によりますと、政治団体ごとにID番号を決めてデータベースを作れば、資金を出した側と受けた側のデータを自動的に突き合わせ、不記載があった場合に担当者に知らせたり、登録できないようにしたりできるということです。
民間の調査会社などでは、国税庁が企業などに対して指定している「法人番号」などを活用して企業間の資金のやり取りを記録するシステムがすでに導入されていて、尾上准教授は政治資金で同じようなシステムを作る場合の費用は、簡易的なものであれば1000万円程度だとしています。
データベース化が進めば、政治家がどんな企業や個人から支援を受けているか、政治資金に関する情報を検索、分析することも可能になるということで、尾上准教授は「政治資金収支報告書をデジタルでデータベース化することは技術的にはそれほど難しいことではない。押印の廃止など行政のデジタル化が議論される中で、政治資金収支報告書は現在、全体として矛盾がないのかが全くチェックができていない。デジタルで資金をやり取りする仕組みを整えていく必要がある」と話しています。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/49843.html